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 『コンサルタントの眼』                     No.53 2003/7/29 (Tue)

      # コンセプチュアライザーtakeoが様々な事象を批評 #
   
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        ◆ ポスト工業社会は情報社会か ◆
        
        
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 ポスト工業社会という表現は、ダニエル・ベル(ハーバード大学名誉教授)が
「脱・工業社会の到来」で論じてから有名になったことは、さしあたり、当メルマ
ガご購読のみなさんには周知のところですね。
 ベルさんは、ポスト工業社会のテーマは知識・情報である、と論じ、「情報化社
会」の先鞭をつけた一人であることもご承知のとおり。

ところが。
 情報・知識が必要なのはポスト工業社会に限られたことではありません。人間、
否、生物一般が、「快を増やし不快を避ける」ことを基準に生を営む以上、知識・
情報の必要性は未来永劫変わることはありません。言うまでもなく「工業社会」
の勝利者を決定するにあたって力のあったのも知識・情報でしたからね。もちろん
知識・情報のうちでも工業社会という時代に対応した価値を生み出すことに効能・
効果をもたらすものが尊重されたことは言うまでもありません。

 このように考えれば、知識や情報をめぐる工業社会とポスト工業社会の差は、知
識・情報の価値が変わる、と言うことではありません。

 ポスト工業社会においてにわかに知識・情報の価値が高まる、ということではな
く、いずれの時代にも知識や情報は必要だが、時代が変わり・価値が変われば必要
な情報、価値のある知識も自ずと変わってくる、ということです。ポスト工業社会
は知識・情報の社会だ、などと言う認識でこと足りると考えていると、情報機器の
改善・開発レベルに留まってしまうおそれがある。

 では、ポスト工業社会において必要とされる知識・情報とはどのような性格を持
ったものか?それはもちろん、ポスト工業社会の価値を実現するという営みに効果
効能を持つ知識・技術でなければならない。では、ポスト工業社会の価値とは何か?
ベルさんが言わなければいけなかったのはここのところですね。
 で、ベルさんが『ポスト工業社会の到来』においてこのあたりをいっているかどう
か、いっているとしたら何をいっていたかと言うことは別として、ポスト工業社会
の価値を考えてみたいと思います。

 このところ、当サイトでは松下幸之助さんの「水道哲学」について考える機会が
何度も有りましたが、水道哲学こそが「工業社会の論理」であり、目的・価値・コ
ンセプトである、と言えると思います。便利な製品が安価に誰にも入手できる、これ
は「いいものをどんどん安く」というダイエーの創業者・中内功さんの信念に連なる
ものであり、水道哲学の流通版と見なすことが出来ます。
 
 実は、「水道哲学」が実現しようとしたことは、価値ではありません。不便や不自
由、欠乏などを解消することは、価値の増大と言うよりも「反価値」「価値の実現を
阻むもの」の消滅を目指すものでした。「もっと便利に・もっとたくさん」というこ
とは、「必要なこと(好き嫌いを超越して)をするために使う時間を少なくする」、
「必要な物財をコストをかけずに入手する」という課題を解決するものでした。これ
らの課題に共通しているのは、解決されないと困るが解決されたからと言って価値が
増える訳ではない、と言う性格です。
 もちろん、ここでいう「価値」とは、実現したり増やしたりすると充実感や生き甲
斐などを感じられる対象や行為のことです。つまり、不満要因と満足要因は異なる、
という「衛生理論」ですね。

 水道哲学の課題=「生活環境の整備」という課題がひとまず解決された時代、新し
い課題は、工業社会が生み出した、余暇、便利な道具、快適な環境などを利用して何
を実現するのか、と言うことです。私が提唱している「時間堪能」、自分らしい時間
を演出し堪能する、ということが課題というか目的というか成り行きというか、そう
いったことの実現を目指すことが「ポスト工業社会」の最大公約数的テーマになると
思います。
 そうであるとするならば、「ポスト工業社会」は、「知識・情報社会」などではな
く、「時間堪能社会」、そこで求められる知識・情報とは時間堪能という課題に関わ
るものである、ということになります。

 念のためにいっておきますが、「ポスト工業社会」とは工業が駄目になるとか工業
を否定する社会ではありません。工業社会の前は農業社会でした。ポスト農業社会で
ある工業社会において農業が果たす役割は減るどころかいっそう重要になっています。
これからはさらに重要になっていくことでしょう。
 では、農業社会と工業社会を分別するのは何か?
 私は社会を統制する価値基準(イデオロギー)だと思います。これは大きくは国家
や国際関係のあり方を決定しますし、具体的には個々人の価値観や行動を左右する力
を持っています。この価値基準が農業社会と工業社会では大きく異なっている、とい
うことです。

 ポスト工業社会において工業はこれまで以上に重要な役割を果たすことになると思
いますが、もはやこれから先、水道哲学の論理が社会全体の価値基準になるというこ
とはないでしょう。
(もしそういうことがあるとすれば、「ものが行き渡らない」という条件の社会に変
わった時であり、そういう可能性が無いとはいい切れないところではありますが、そ
のことはまたの機会として今回はひとまずかっこに入れておきましょう。)

 で、時代の課題が「時間堪能」と言うことになれば、必要な知識。情報とは「時間
堪能」を実現するために必要な知識・情報のことです。ここ、アンダーラインもので
すからね。限られた時間と所得をやりくりして生活を堪能する。人々の生活はその性
格によって二極に収れんしていきます。時間消費型と時間堪能型。
 前者は工夫して切りつめ・短縮、コストも落とす、後者は堪能するために演出に工
夫を凝らし、大道具・小道具にもこだわってしまう・・・。
 区分の基準、手短に言えば前者は「早く終わらないかな、まだこんな時間か」と早
く過ぎ去ることを望む時間、後者は「おっ、もうこんな時間か、もっと続けたいな」
と感じる時間でしょう。あなたにとって「お仕事」の時間はどっちがどっち?

 工業社会の知識・ノウハウは、それぞれ組織の司令塔に集中していればまずまずよ
ろしかった。末端では司令塔の意志決定および計画遂行に必要な情報・知識が過不足
無く行き渡利、かつ収集・加工されればそれでこと足りました。
 ポスト工業社会=時間堪能型社会ではそうはいきません。


 ポスト工業社会の知識・情報ニーズについてはもう一度書きます。
今回は「ポスト工業社会は時間堪能社会、情報社会ではない」と言うことを確認して
おきましょう。


※余 談
 今は昔、パリは五月革命に際し、学生たちに占拠された学校の壁に「必然性に依拠
するすべての事物が失墜し、想像力が権力を握る」と、マルクスをもじったスローガ
ンが書かれたと聞いたことがあります。ポスト工業社会、ポスト水道哲学の実践こそ
が、「不快を減らし・快を増やす」工業社会・水道哲学時代の問題意識を現代におい
て継承することであると考えれば、意外にもこれから先の社会的課題=事業機会を暗
示していたかのようで、興味深く思い出されました。


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